台風シーズン

 僕が小学六年生のとき伊勢湾台風があった。あのときは“死ぬか”と感じた数少ない体験となっている。強風で柱がミシミシと音をたてていた。雨漏りもした。怖かった。僕の家は、その市の北部だったため大きな被害を受けずにすんだ。それでも朝、目が覚めたら屋根瓦が数枚飛び、塀が倒壊、鳩小屋も潰れてしまっていた。当時、仲間内で鳩を飼うのが流行っていた。僕のそれは一番立派なやつで自慢していた。お祖父ちゃんが大工さんで格好いいのを作ってくれたのだ。
 その市の南部に大きな被害が出た。人もたくさん死んだ。そのときの死体片付けの仕事で多額の金を儲けた人がいたという。台風特需とでも云うのか。疎開して来た人もいた。小学校の体育館で寝泊りしていた。両親を亡くした子もいた。親戚だったのか養子縁組したのか、こちらの子になってしまった。彼とは中学の三年間同じクラスだった。
 今年も台風シーズンとなったが極力穏やかに来てくださらないだろうか。