顔のホクロ

 顔……。勿論、自分の顔である。齢を取ってきたせいかシミが目立ってきた。ホクロも大きなのが三つある。朝の洗顔の際に鏡を見て、日を追うごとに、それらの“気に懸かる程度”が、増してきた。家内は「放っときなさい」と言ったが、「取り除いて貰おう」そう決めた。
 近所の皮膚科の医院へ行った。お医者さんは一番大きいのを、「イボだ」と指摘して次のように語った。「処置してとってあげますが、悪性ではないので“放置”が考え方の基本です」と。そして専門書を見せてくれた。さらに「一つとると、さらに次、またその次と際限が無くなるひとがいます。治療も完全なものではありません。終了はあなたが御自身で決めて下さい」と、付け加えた。
 ところで、ひとの顔をよく見ると、老若を問わず誰でも何かが点いている。“真っさらの顔”なんて人はまずいない。女子マラソンの野口みづきさん。鼻の横と唇の下、対角線上に大きなホクロがある。愛嬌があっていい。歌手の千昌夫さん、額の真ん中に大きなそれ。大仏様みたいだ。彼はかつて「私に向かってお賽銭を投げなさい」と、ファンに対して言っていた。
 その後、私は都合四度通院した。薄くはなったがホクロやシミはなくならない。もうそろそろ止そうと決めた。二回で辞めとけばよかった、否、始めから行く必要など無かったかもしれない、家内のアドバイスを聞いておけばよかったのかも、と思っている。
 後日、或る知人に聞いてみた。「顔のホクロをとる気はないの」と。そのひとは左右の頬に一つずつ目立っている。「運勢が悪い方向に変わるといけないから放って置く」と答えた。私は「それがいい」と相槌を打った。