歌舞伎のこと

 僕は芝居は全くといっていいほど見ていない。今後もたぶん見ないだろう。なぜかは今日は書かない。だが歌舞伎だけは別だ。齢を取って来たせいもあってか、英語文化より日本の伝統芸能の方が肌にあってきた。歌舞伎は綺麗でとてもいい。感極まって見得を切るところが最高だ。写真のない時代、絵にしてみようとの考えから見得の形が生まれたらしい。いろいろ分野があるみたいだが、舞踊劇と云われる物が好きだ。「京鹿子娘道成寺」「積恋雪関戸」「英執着獅子」などが好きだ。
 これまで二度、御園座に見に行った。ロビーでは各机に屋号を示して美人の女性たちが並んでいた。「なんですか」と訊ねたら、「ファンクラブです」との返事。後から聞いた話だと、そのひとたちは役者の奥さん連中らしい。歌舞伎を覚えようと思ったら、惚れた役者さんの“追っかけ”になるのが早道だとのこと。
 江戸、上方ともに襲名披露が盛んで結構なことだが、市川団十郎さんには、早く病気から回復し元気な踊りを見せて貰いたい。我々ファンはいま“暫”待たねばならない。俳優協会会長の中村雀右衛門丈の話を以前、テレビで聞いた。太平洋戦争で従軍、現在のアセアン諸国辺りでトラックの運転手をされていたとのこと。「戦争中はお稽古ができなかったが、芸は永遠だと思う」と言っておられた。感動した。
 暇がもっとできたら、劇場通いで“歌舞伎道楽”とでも洒落込もう。若くはないので追っかけまではもうできないが…。