酒呑み

 僕はかつて、二日酔いの男との異名を貰っていた時期があった。最近では歳のせいもあってか流石に呑めなくなっている。若い頃愛読した「福翁自伝」には、主人公が酒豪だったが歳をとるにつれて呑めなくなって行ったことが記されている。“鯨飲”などという言葉が使われていて面白かった。
 僕は40歳少し前に引越しをした。そこで、それまで取引していた酒屋さんとの関係をどうするかが問題になった。5kmくらい離れるが、おじさんが配達すると言うので引き続き買うことにした。しばらくして近所に酒類の激安店がオープンした。家計の点からいっておじさんの店から買うことができなくなった。注文の電話をしなくなったので、おじさんとはその時点で全巻の終わり。長い間取引していたのに何の挨拶もないあっけない幕切れだった。おじさんとは道で出会うこともないので気まずい思いをしなくて済んでいる。
 その後、その激安店も閉店してしまった。幸か不幸か、僕の飲酒癖が自然消滅したので新たに酒を買う店を探す必要もなく現在に至っている。
 ところで、酒販組合が揺れ動いている。元事務局長が逮捕された。私的に流用した部分のほか、多額の使途不明金があるという。年金の樽を空にして盗み酒をしたと皮肉られている。僕は隠れ酒をやったことはあるが、もちろん自分の金でだ…。酒の販売合戦で町の酒屋さんは大変らしい。政治家絡みでいろいろ難しい構造的な問題が潜んでいるみたいだ。