天下の奇祭

 …はだか男達に向って掛けられる水は中心にいる神男の命水ともなる。その水はたちまちにして湯煙となって立ち上る…。愛知県稲沢市の「国府宮のはだか祭り」として全国に知られているこの厄除け神事は、毎年旧暦正月13日に斎行されるが、今年は2月10日がその日に当たる。
 僕と同年齢の知人がこのお祭りを毎年見物に行っている。10年程前に行ったのが始まりで、感動し、それ以来病み付きになったそうだ。「今年は定年前の歳だから3,500円払って神男に触ってくる」と彼は云い、さらに「君もいっしょに行かないかい」と僕を誘った。僕は一瞬、「金出してまで裸の男に触るなんぞ、馬っ鹿じゃなかろか」と心の中で思ったが、「その日は生憎、或る結婚式に招待されているから」と適当に誤魔化して断った。家内に誘われたことを話したら、「あなたも行ってらっしゃい」と云われた。家内によれば、僕の知人が正しくて、僕が間違っていると断言された。昔から伝わる日本の神事にはすべて大きな意味があるという。秋田県の「なまはげ」なども同じことだというのだ。
 テレビ中継ではだか祭りの勇壮な有様は知っている。群れの中に白ふんどし姿の黒人青年などが交じっていて、少し奇異な感じを受けたこともあった。どう考えても、僕の神経は裸男の大群を理解しない。高校生のとき同じクラスに、この神社の近くに住む女子生徒がいた。彼女が、「私はああいうのは嫌いなの」と云ったのを思い出している。