イナバウァー

 伊トリノで第20回冬季オリンピックが始まった。暇に任せてちょこちょことテレビ観戦することになるが、やはり女子フィギュアスケートがいちばんの楽しみである。「4回転に挑む」安藤美姫、「芸術性」の村主章枝、そして「実力派」の荒川静香である。それぞれ、その美しさが魅力的だが今回はとくに荒川静香さんに注目してみよう。彼女は世界一の「イナバウアー」だそうだ。昔のドイツ選手の名前だが、ある技の呼び名として通っている。滑りながら背中を反らせていく。頭と氷上の距離が段々と短くなっていく。その時、アナウンサーの声が「出たッ、イナバウアー」と大きくなる。だが、これは技と技との繋ぎ目としてしか評価されず点数にはならない。彼女はこれまでずっと芸術性を貫いてきた。得点にならなくてもいいから「私の世界を見てください」と今回は大々的にこの技をとりいれるそうだ。その採点法は、小さな細かい技にレベル3・4と付けて、それに加点していくやり方で、2シーズン前に変わったらしい。現審判制に抵抗する自分の哲学を世界に披露するのだそうだ。 荒川さんの誇りを賭けた氷上の戦い。ロシアの大物スルツカヤ、「なにするものぞ」だ。今から胸を踊らせている。
 我が娘は長じてしまったが、もし今、幼児だったら、フィギアスケートを習わせて楽しむ父親になっていたかもしれない。