上坂冬子さんのこと

 長い間、本を買わない。パソコンを始めてから無料で図書館を一部利用できるのがその理由である。新しいものは読めないが暇つぶしだけが目的なので、それで十分に間に合っている。だが最近、ぜひ買って読んでみたい気になった1冊が出てきた。10日付けの新聞広告で見た文芸春秋7月号である。その中で女性ドキュメンタリストの上坂冬子さんが「北城さん、靖国は商売の邪魔ですか・経済同友会代表に問う」との題で書いている。
 私は上坂女史のファンである。好きな作家三人の内の一人である。全作品を読んだわけではないが、そのデビュー作「職場の群像」は感動に近い読後感があったと記憶している。この作品は後の社会主義ソビエトの崩壊を予見していると言ったら、それは私の読み方が間違っているからなのだろうか。今、考え直しても高卒のお茶汲みOLの身辺雑記とはどうしても思えない。尤も、当時の彼女のバックには東大哲学科の学者が付いていたのだが…。彼女は途中から歴史物に転換していくが、私は初期の頃の作品の方が好きだ。自叙伝エッセイも読んだがとても面白かった。愛知県挙母(現豊田)市の高校出身で今をときめくトヨタ自動車のOLをやっていた。社員食堂の雰囲気が合わないと言って昼休みに裏山で焼き芋を食べていた。それと、ヘルメットとゲバ棒武装したインテリ女性たちのグループ・中ピ連が世間で物議を醸しテレビ出演した際、上坂冬子さんがそのリーダー(榎本何某さんとかいう名だったかな)に対し、「お茶か、お華でも習いなさい」と、あの丸顔のくるくるお目目で忠告していたのが印象に残っている。
 最近の彼女はよく知らないが、なんだか政治活動のリーダーをしているらしい。久しぶりに彼女の作品に接することができて私は興奮気味である。